佐藤友哉『デンデラ』読んだ!

デンデラ

デンデラ

ゆやたん…こんなに大きくなって…ううっ、という今作。もう個人的にしか読めなかったので個人的に感想を言いますが、とてもよかったです。姥捨て山を選んだのは設定勝ちだなーなどと思いながら読みはじめたんだけど、最後の疾走ですべてちゃらになりました。あの場面のためにある話だったし、それしかない。描写に関しても私は全然平気だったので、もうそこを跳び越えて、最後のカタルシスに一直線だったのでありました。
ただ、万人におすすめできるかというと微妙です。ゼロ年代メフィストライトノベル、あたりでひっかかりを感じる方には読んでみてほしい。本格とか、純文、とかにひっかかりを感じる方には、うーん。あと完全な娯楽を求める方にも、うーん。文体と題材とでかなりの割合振り落とされてしまうので、けっこうストライクゾーン狭い話じゃないかな、とは思いました。私は好きです。


以下引用:


「斎藤カユは走り続けました。片方だけ残った腕を振りながら、走るという意識のみを爆発させました。何も見えてはいませんでした。何も感じてはいませんでした。藁沓は破れ、白髪は逆立ったまま凍りつき、鼻血が流れ、蓑は吹き飛び、白装束もはだけ、斎藤カユは化ケ物のような姿になっていました。斎藤カユは『お山』を必死に突き抜けながら、しかし自分は化ケ物ではなく人として死にたいと熱烈に願いました。はっきりした一個の人として死にたいと願いました。」
(p. 328)


「今までまったく無感覚だった斎藤カユの足裏が、不意に何かを踏みつけました。それは長いあいだ味わっていない、とても柔らかな感触でした。そのようなことにかまっている余裕のない斎藤カユは無視して走っていましたが、足裏がまたしても何かを踏みつけたので、視線を少しだけ下げることを自分に許可して、地面に眼を向けました。
それは、目を出したばかりの福寿草でした。」
(p.330)