トイレの文化史

トイレの文化史 (ちくま文芸文庫)

トイレの文化史 (ちくま文芸文庫)

ようやく読み終わった。これも真面目に書けばかくほど滑稽さを増していくたぐいの本でした。面白かったです。17世紀のパリから20世紀のパリまで、トイレと排泄物の歴史はほんとうにちょっとしか進まない。というか清潔なトイレがなかったということがおそろしい。19世紀の終わり頃まで貧困層は60人で一つのトイレを共有せねばならず、しかもそのトイレは常に周囲に汚物があふれかえっており、悪臭を放ち、病原菌の住みかになっていたという。なんと恐ろしきかなパリ。
それにしても、こういうテーマをちゃんと社会史として書ききった著者には頭がさがる。相当努力もいったようだ:

本書の意図したような道に踏み込むことには非常な危険がつきまとうことは読者にもいずれ感じ取れるであろう。われわれは両側の絶壁に転落する危険を冒しつつ険しい尾根の道を苦労しながら進んだのである。片側には技術博物館になってしまう危険、反対側は酔わせるような芳香に満ちた糞尿趣味の地獄である。
(p.12)


パリの公衆衛生と人々の道徳観との興味深い関係を知りたい方はぜひ。