キッチン/吉本ばなな

キッチン (角川文庫)

キッチン (角川文庫)

知り合いに勧められて。あ、初吉本ばななです。
読みだしてすぐに、懐かしいと思いました。それから次に、ずるい!と思った。きーってなりました。この方向はもう吉本ばなながやっちゃってるんじゃん、と。
懐かしいというのは、親しんでいるものが彼女の文章のあちこちにあったからです。あまりに親しみすぎていて、感情移入せずには読むことができなかったほどです。いまこの年齢に読むことができて良かったと思います。
それにしてもキッチンは、友達と恋人の間というのを本当に秀逸に書いていて、あーそうだよそう、そこで電話を切ったらもうダメなんだよ!と文庫本を持つ手にも力が入りました。そしてその後みかげがタクシーをとばす場面では、夜中に乗った飛行機を思い出した。私も人に会うために、夜最後の飛行機に乗り、朝一番の飛行機で帰るということをしたことがあったのです。滞在時間は10時間にも満たず、でも行かずにはいられなかった。あー若かったなー。若いってすごいなーと思いました。ありあまる体力をどこへつぎ込むかって人それぞれだと思うわけですが、私はけっこう恋愛に注いできたのかもしれないです。
ずるいというのは、彼女が描いている女の子と女のちょうど間くらいの人間が、私にとって一番ぐっとくる存在であり、彼女よりうまくそれを描いている人をまだ知らないということです。背伸びをした少女でもなく、回想する大人でもなく、その中間。なんかもう、やられた。
しかし一番驚いたのは、著者近影の写真です。かわいくない。村上春樹よりずっと衝撃でした。今思えば、その瞬間から私は彼女に共感してしまっていたのかもしれません。不美人にしか描けない小説というものもある。彼女がこういう形で彼女の問題を消化したことを私はうらやましくも思い、嫉妬し、しかし最後には感嘆のため息で見送ったのでした。
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彼女の文章を読んでいるとわけもなく泣き出してしまいそうだ。女であるって、とても哀しいことかもしれない。それをどうにか引き受けて生きていこうとするときに、彼女の文章が染み込むように自然に感じられて、そのことにもまた哀しくなってしまう。