ロ、リー、タ

ロリータ (新潮文庫)

ロリータ (新潮文庫)

日記を書かないあいだ何をしていたかというと、本を読んでいました。ロ、リー、タ。訳が悪い*1とは聞いておりましたが、これほどまでに冗長だとほとんど冗談としか思えないというか、とりあえず中盤のだるさは異常です。ですがだるさは往々にして劇的変化の前触れであるということを小説の長さから推し量りながら読みまして、ようやくハンバート・ハンバート氏が拳銃をぶっ放す場面に至り、爽快な気分になったかというと決してそうではないのが文学の恐ろしいところであります。爽快にさせてくれ、爽快に終わらせてくれと思いながら、結局ずぶずぶと赤い沼の中に沈んでいくようなけだるさが残る読後は見事というほかありません。
ですが、かのドロレスくんは、私には美しい少女という程度にしか映らず、これはいつだったか『泡沫の日々』を読んだとき、クロエの美しさがあっさりとしか感じられなかった感覚に似ています。翻訳のせいなのだとすれば、私は原書を読むべきですが、残念ながらその時間はありそうにありません。
ロシア語ではなく英語で書かざるを得なかったこの物語には、ロシア語で表現できることは一切表現できてはいないが、英語であるがゆえの表現になっていることに多少の無念さと満足を覚えるといったことをナボコフは後書きで書いておりますが、それは読者とて同様なのです。彼が修辞のプロなのだとすれば、やはり原書を、彼の書いたものを読むべきなのは当然ですが、私が日本語でそれを読むしかなく、日本語で書かれたそれに対する感想をナボコフに帰するというのも、あってしかるべき現象ではないのかと、まぁ自分を慰める次第。余生は、原書で物語りを読むことに費やしたい気が少しします。

*1:私の読んだのは、大久保康雄氏訳