世迷い言

世界の色を知っている。彼方が、青白く光って、ゆっくりと、夜が押し退けられてゆくときの、世界の色を。
自由にならない呼吸不全を抱えながら、眠れないまま、涙目の向こう側に見る朝は、硬質で、清廉で、幻想的で、力強くて、けれど、魔法が解けていくように、現実的で、世界の始まりで、白けている。
泡沫から目覚めて、音が少しずつ増え、人の声がし始める頃、私の呼吸はようやく落ち着いてくる。夜は怖い。眠ってしまったまま、起きあがれなくなってしまう気がする。だから私は、死にそうに苦しいとき、ずっと起きている。うとうとしたまま朝を迎え、世界の始まりを見届けてから、ようやく安心して眠る。私が見ていなくても、世界はやっていけることを確信するから。
地球がこんなふうじゃなかったら、宇宙がこんなふうじゃなかったら、私もこんなふうじゃなかったんだろう。私はどんなふうだったんだろう。朝はどんなふうにやってきたんだろう。夜は何色をしていて、そのとき私は何を感じたんだろう。
世界の終わりが、私は怖い。私は人間だから、あきらめがわるいんだ。いつか終わるなら、そのとき私は私のことを忘れていられたらいいのにと思う。眠りに落ちるときみたいに。