"Imprints and Moulds"

"Imprints and Moulds(The interview with H&dM)" in : Philip Ursprung(e.d.), Herzog & de Meuron NATURAL HISTORY, pp244-245

Philip Ursprung: あなた方の仕事(作品)における主要な概念は写真ですね。

H&dM: もう一度、我々の中心的な関心事へ戻りますと、それは現実(reality)とは何か?という問いです。特定の目的をもって描き出された現実は、どのようにして時間と関わっているのだろうか?
私は個人的に、写真とはかなり変わった関係を持っています。写真に私は魅せられるのですが、しかし憂鬱にもさせられるのです。何故なら写真は強烈に過去と、つまり過ぎ去ってしまった時間と、死と、繋がっているからです。それは特に、各人の人生を引き合いに出す(refer to)とき、また肉体の衰え、を引き合いに出すとき、に直面するようなものです。たとえばあなたが家族のアルバムを見ているときなんかに、そうしたことに直面させられるのです。
みんながそうした体験をしてきましたが、異なる方法でそれに対応してきました。私の兄弟は、古い写真を収集することに凝っています。彼のコレクションは、過去150年にもわたる写真の歴史を覆う、相当な記録の集積が、冷酷な衰退の記録でもあるのだということを、ハッキリと気づかせます。つまりは人、建物、自然、山、氷河─これらはすべて変貌し、最終的に消滅します。トラウマ的です。写真だけが、そのように痛切な迫真さを伴う人間の状態の、こうした側面を表現することができるのです。
それから、ごまかし(deception:欺瞞)は、写真においては常に1つの要素となります。我々はある認識とともに育ちました。写真は現実を忠実に描く1つのメディア(medium:媒体、手段、仲介者)である、という認識です。このメディアは、常に操作されてきましたから、もはや誰もその確実性(authenticity)を信じてはいません。
この論点はすでにアントニオーニ*1のフィルムで取り扱われています。もっともはっきりしているのは『Blow-Up(邦題:欲望)』*2でしょう。
またもっと最近であればトーマス・ルフの写真集です。そのまったく凡庸な現実感(reality)は、逆説的にデジタル処理した写真画像(picture)によって実現されています。ルフの写真画像の特質(quality)は、とりわけ(above all)転覆する能力、我々がいわゆる現実と信じているものを削り取る(undermine:浸食する)という能力において明らかになります。これが、彼に我々の建物を撮影するよう頼んだ理由の1つです。というのは、我々は、彼が撮ったものが我々にとって一見自明で、非常に親しみ深い世界のなかに存在しているところを、見てみたかったのです。
ミュルーズのリコラ社工場には、ブロッスフェルト*3のモチーフを幾つか、最終的に用いる前に試してみました。木の葉の写真は、簡単に認識できる形、つまり木の葉の形と、何か抽象的な、様式化された、装飾とを結びつけています。我々は、最終的な建築のコンセプトを展開させた後、ブロッスフェルトによるこのただ一つのイメージを、建築用ブロックのようにして用いました。その時は、写真を扱った方法を充分には展開させていなかったのですが、この方法はエバースヴァルデにおいて再び用いられ、我々はルフに、彼の写真をファサードに、という提案をしたのでした。
最も初期の、有名な写真というとダゲレオタイプ*4です。写真のはかなさ(transience)と壊れやすさ(fragility)は強いmirroring効果*5によって強調されます。驚いたことに、陶器に印刷された写真は、紙に印刷されたものよりももっとはかなく(ephemeral)、壊れやすく見えるのです。
エバースヴァルデで我々は、写真をコンクリートへ応用する手段を開発しました。我々は、コンクリートの通常の原料に加えて、画像がぼやけ(fuzziness)たり見えなく(disappearance)なったりすることを想定した工業素材を採用しなくてはならなかったのですが、このアイデアは気に入っています。ウォーホルの作品において我々を魅了した、反復されるシルクスクリーンが、全く同一ではないのにもかかわらず切手の印刷のように見えた、そういう効果があるからです。だからそれらは、一方で工業的な側面を示しながら、しかしもう一方で変容と儚さを表すのです。実際、それは写真の客観性と明白性(incontestability)でありますし、また、私を魅惑すると同時に不快にさせる、避けられない死への接近でもあるのです。

 
 
 
<おまけメモ>

  • 写真の話はほとんどバルトの『明るい部屋』と同じようなことで、つまり写真に死を見るという見方はそれほど彼(多分インタビューに答えてるのはジャック・ヘルツォークの方)独自というわけでもない。
  • ルフの写真集→http://village.infoweb.ne.jp/~blitz/b_260.html

*1:多分Michelangelo Antonioni、映画監督

*2:http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD14271/story.html

*3:Karl Blossfeldt 1865-1932。参考:http://www.masters-of-photography.com/B/blossfeldt/blossfeldt.html

*4:銀盤写真(法)

*5:意味が不明。写真用語?コンピュータ用語?