「インポート、エクスポート(Import Export)」

ウルリヒ・ザイドル監督のちょっと前のやつ。
日本語版のDVDは、昨日書いたパラダイス三部作とのセットでしか売られていないようで。同じ商品の紹介みたいなんですけど、違う映画の話です。


「インポートエクスポート(Import Export)」

ウクライナオーストリアとを往来する、それぞれの国の住人たちの話。面白かったけど、鈍器で殴られたような後味の残る映画。
わずか数百キロの地理的距離が、途方もない経済格差と、生活レベルの差を生んでいるという欧州の現実が、ほぼありのままに描かれている、と思います。(本当にそうなのかは直接知らないのですが、どうも本当っぽいです)
でも、筆致は軽く、問題提起のために作られたストーリーというものもなく、それゆえテーマは非常に重いにもかかわらず、見るだけであればすっと終わってしまう。圧倒的な出来事を映し出しているにもかかわらず、何を意味するのかが見る者の解釈に依存するという点は、これぞ現実、と言うべきなのかもしれません。悪趣味ではないものの、生々しい。それはたとえば、映画の終わらせ方が誰かの死や何かの結末ではなく、これから続いていくものの描写だという点にも感じ取れます。
ファスビンダーと比較されることもあるようなのですが、ファスビンダーの撮るものとはかなり違う映画だと思います。素材が似ているからかそう感じる場面はありますが、映画としてのつくりはまったく違う。ファスビンダーは、メロドラマだし、劇映画です。構図も舞台のように作られており、ストーリーはどこの国ということもなく進みます。一方ザイデルの撮るものは、ほぼドキュメンタリーと呼んでもいいのではないかというほど、生々しいアドリブが特徴。彼の意図はあるものの、極端に薄いというか。
パラダイス三部作をあと2作残したままなんですが、ちょっと気が重くなってきました。ただ楽しい映画じゃないってわかってるだけになおさら。なんか、この監督はこの路線以外にどうやってこのあと続けていくんだろうなぁと。監督自身の今後が気になります。