「MUD」「FRANK」「THE ACT OF KILLING」「DOGTOOTH」

割と順調に映画を観ているのですが、感想を書くのをさぼっていました。
あたりが続いてて嬉しいです。


■「マッド(MUD)」

MUD -マッド- [DVD]

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マコノヘイさんがさわやかな殺人犯を演じるときいて。
いい映画でした!少年と、大人になりきれない”かつての少年”の交流を描く良作。
特に、少年役のタイ・シェルダンがよかったです。青春が肉体をもつとこういう感じになるのかなって思いました。マコノヒーに惹かれてしまうシーンなんて「ダメーー!そいつ交流したらダメなやつだから絶対!」って画面に食いつきたくなる純真ぶり。
あとマシュー・マコノヒーって、物語を強制的にハッピーエンドへもっていくある種の装置とか陰謀なんではないか。死なないし。もうあそこまでいくと「マコノヒーの出る映画は大体全部ファンタジー」説を提唱したくなります。あれはどう考えても死んでるだろう。
純真な少年と、うさんくさいマコノヒーさんのコントラストが観たい方はぜひ。


■「フランク(FRANK)」

FRANK フランク [DVD]

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FRANK

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ファスベンダーさんが一ミリくらいしかでてこないときいて。
インディ臭ただよう文化系フィルムでした。いや、似非サブカル女的には面白かったですよ!
ずっとかぶりものをしているけど、センスは抜群にいいバンドボーカルにある日スカウトされ、拉致同然でレコーディングに連れて行かれるといった筋。
ヤバイ(けどセーフ)とアウトの境界線をいったりきたりするところがよかったです。主人公は基本的にまともな馬鹿なんだけど、それがある種のきわどい世界に触れることで、自己認識が「すごい奴らを発見した自分」へと変わっていく。すごい奴らのおかげで自分がすごいって思い込んでしまうという、なんというか、痛々しいです。閉じた世界に居られることでようやく保たれていたバランスが、主人公のせいでガラガラと崩れていってしまう様子がユーモラスに描かれておりました。ファスベンダーさんはなんでこの役やろうって思ったんだろうというのは、本当に不思議。ファスベンダーファンは観なくていいと思います。


■「アクトオブキリング(Act of Killing)」

これはすごいドキュメンタリーでした。好きか嫌いかは別として、観るべき映画。
インドネシア共産主義排外運動の中で、大量に共産主義者(と思わしき人々)を虐殺した人物のドキュメンタリーです。というか、その人物をどう丸め込んだのかわからないのですが、もう一度その場面を再現して見せて欲しいと頼み、映画を撮影する過程をフィルムにしたといった方がいいのか。
正義をかざす虐殺が個人の意思とは異なる力によってその個人の行動を支配するといった、時代や社会というものの重み、影響力を強く感じました。また殺人を犯す側の心が、何か殺される側と異なっているということはなく、ただ、その側にたったということによって、殺すことになってしまったのではないかと感じる場面が多くありました。
虐殺の現場で繰り返される嘔吐反応が、それが個人の心や体にとって耐え切れるようなものではないんじゃないかと強く感じさせますし、そういった反応を示さない人物の言行が、反対にひどく割り切れていたのも気になりました。殺人に関わった人々がみな病んでいったり、カウンセリングを受けているというくだりもそうです。
いずれにしろ、出来事としては100万人を越える人が殺されたわけです。ただその数字の向こう側に苦悩する個人がいくらいたところで、その個人にはどうしようもなかったということが、この規模の出来事の特徴であると思います。だからといって、残された人々の傷がいえることなどないのだと思うと、結局、暗澹たる気持ちにしかなりません。せめて自分が殺す側になるような場面には出会いたくないものです。だって、私殺せといわれたら殺すと思いますもの。きっと。そして悪夢を見るんです。


■「籠の中の乙女(DOGTOOTH)」

これは奇作でした…嫌いじゃないけど、絶対万人受けしないです。
細かいことはよくわからないけど、どうやら生まれたときから軟禁されているっぽい子供たちの話。
言葉づかいが奇妙だったり、独特のルールがあったり、近親相姦的な交流があったり。閉じた世界で暴走していく狂気のようなものが描かれているのですが、それが派手じゃないだけにじわじわと怖い。起こっている出来事がしょうもないからこそ感じる恐怖ってあるんだな、と思ってしまいました。
クライマックスからラストに至る静寂も不気味です。こういうのこそ、black comedyって言うんじゃなかろうか。
ものすごい低予算映画なのに、それを感じさせない装置といい、脚本といい、見事でした。ヨーロッパ系映画の間合いが大丈夫な方にはぜひ観て欲しいです。