フリードキン月間「エクソシスト」「12人の怒れる男/評決の行方」

想像以上にフリードキンの映画が面白かったということもあり、5月はフリードキン月間でした。


エクソシスト ディレクターズカット版 & オリジナル劇場版(2枚組) [Blu-ray]

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呪い系映画なのかと思いきや、人間の悲しさと強さを描いた傑作でした。たいへん面白かったです!有名な作品ですし、語りつくされていると思いますんで思ったことをつらつら書いてみます。
まず当初、やばいくらい呪い系ホラーだと思って観始めたのですが、全然そういう印象はありません。むしろ、ラヴクラフト的な神話ものの印象のほうが強く、人間の思いによる呪いのようなものではなく、自然災害の脅威に近い恐ろしさでした。(不気味さでいうと「死霊のはらわた」のほうが嫌な後味)
そのせいか、役者個々の演技にも目がいきますし、それぞれの登場人物の苦悩が描かれることで、悪魔の怖さや不気味さよりも、それに苦しめられる人間のほうに焦点のあることがよくわかります。
もちろんリーガンの悪魔憑き演技と演出が面白かったのは言うまでもないです。


フリードキンの映画はときどき演劇的なところがあって、つまり「みんながそう信じているから」意味をなす行為というのがたくさんあります。もっと言うと、みんながそう信じざるを得ない状況を作り出せる、というのがフリードキンの映画監督としてのすごさ、でもある。
見たことがないものを映像にする、聴いたことがない声を録音する、そして誰もが今まで見たことがなかったにもかかわらず、恐ろしく、悲しく感じるストーリーを作り上げる。エクソシストが素晴らしい映画だというのは、映画の表現しうる想像力を、そのとき可能な技術を駆使して描ききったことにあるのでは、と感じました。
そこにあるのは技術のための映画ではなく、映画のための技術であり、フリードキンがやってみせたのは、想像可能な世界は実現可能だということでした。映画の力というのは、私たちが想像しながらも普段は目にすることがない世界を、あっという間に映像として、強烈な印象を伴いながら実現できるところにあるのだ、とまざまざと見せ付けたのです。


なんだかんだ考え出すと長くなるのですが、評価の高さにうなずける、大変面白い映画でした。ホラーが苦手な人にも見てほしい、絶対おススメ映画です。


1955年にオリジナルのTV版が放映されたものの、フリードキンによるリメイクです。緻密な脚本がすばらしい、いい映画でした。
父親殺しで罪に問われた少年の、有罪と無罪を決定する12人の陪審員。彼らが評決を下すまでの数時間を描いた作品です。
アガサ・クリスティで育った私としては大変面白くみました。手法は完全にミステリーで、感情や直感によって正しいとされていることが、論理的にはいかに不完全で正しくないのか、ということを鮮やかに描いていきます。
同時に、事実、と言われるもののあいまいさ、有罪であるか無罪であるかのあいまいさ、人が人を裁く陪審員制度の実態、も読み取れる多層構造になっているのも素晴らしい。
実はオリジナルを観ていないので比較しようがないのですが、基本的に脚本がよくできているので、映像化もそれほど難しくなかったのでは、という印象です。フリードキンの持ち味であるドキュメンタリー色も最初のうちだけで、そのうち、映画というよりはひとつの舞台を見ている感覚になりました。場所がかわらない、というのも理由のひとつです。
舞台設定がシンプルなので、役者の力量が問われる映画でもありますが、その点では、いずれの俳優も非常に演技上手で、特にひとり反対する陪審員8と、最後まで抵抗し続ける陪審員3のふたりが本当に素晴らしい。せりふを語るだけで誰かの感情をゆさぶることができるという、俳優の真価を思う存分観る事ができる脚本と演出でした。
爆発もせず、血も流れず、セックスもない話だってここまで面白くできるんだ、ということを改めて実感させてくれる良作!ミステリー好きならずとも、ぜひ一度みてほしい作品です。