SHAMEをみました。

マイケル・ファスベンダーさんがかっこいいっぽい映画を観ようということで。


SHAME -シェイム- スペシャル・エディション [DVD]

SHAME -シェイム- スペシャル・エディション [DVD]

12 years a slave」のスティーブ・マックイーン監督がセックス中毒患者を描きましたという話。個人的には面白かったけど、家族では見ない方がいいかな…。
欲情は非常に個人的な領域のことであり、それが目前に現れることは多くの人にとって戸惑いや恥じらい、嫌悪を呼び起こすものです。ポルノや裸体は人を欲情させますが、欲情させるということがあからさまであるために、存在することそのものが欲情と容易にすり替えられ、独特の居心地の悪さを呼び起こします。
さて、本作はどちらかというと、ポルノに近いほど裸体や性描写があるにもかかわらず、エロティックではありません。つまり、私はそれほど欲情しなかった。
むしろずっと感じ続けるのは、欲情を抑えることができない悲しさや苦しさ、欲情でしか何かを表現できないことの窮屈さ、卑屈さ、人間としての尊厳のどこか破壊的な薄さ、です。欲情し、激しく何かを求めているのに、それが決して手に入ることはない虚しさというか。
そもそもセックスはそういう性格のものですし、だから中毒になりうるわけですけど、セックスが他の中毒と異なり難しいと感じたのは、そこに愛情というさらに手に入りにくいものが絡むからでしょう。
欲望、何かを徹底的に奪い去りたいと感じたり、破壊したいと感じたりすることは、射精やオーガズムで一時的になだめられはするものの、決して根本的に解決はされない。なぜならおそらくですが、ファスベンダーが求めているのは妹であり、妹の愛であり、そして家族だからです。
これはもう設定がひどいというか、究極にサディスティックだなぁと思うんですが、結局ファスベンダーは絶対に満たされない愛を負わされたキャラクターなので、中毒から抜け出すことは不可能だし、関係の改善も解決もおそらくないだろうということです。
そして私が一番ひっかかったのは、そういう関係を追わされたファスベンダーとマリガンのただ苦しみだけを描き続けることが、いったいどういう意味をもつのかという点でした。
満たされない思いを抱えた一人の男の苦しみを描くという点では、『ブロークバック・マウンテン』や『ザ・マスター』と同じ系譜に連なる映画ですが、この二つと『シェイム』が決定的に違うと感じるのは、そこに報われるであろう光明がひとつも見出せないということです。ブロークバックマウンテンでは、ヒース・レジャーは自分の愛をついに信じることができましたし、ザ・マスターでもホアキン・フェニックスはある種の解放へ行き着くことができました。でも、『シェイム』のファスベンダーはものすごい閉塞感の中で本当に行き場がなく、ただ孤独で、悲しい男でしかありません。私は彼に同情はしますが共感はできないし、おそらく彼を愛することもできない。もし孤独を描こうとしたのであれば見事というしかありませんが、映画が難しいなと思うのは、その孤独が、見る者の中にも呼び起こされてこそある種の心の動きが生まれるということで、つまり私はファスベンダーの孤独を理解はできましたが、感じることはできませんでした。これがおそらく、私がこの映画を面白く観ながら、どこかもやっとしたものを感じた要因ではないかな、と思っています。

うまくまとまっているいい映画だと思いますが、間違っても家族で見てはいけません。