Who watches the watchmen?

どうもこんにちは。アメコミ熱をけっこう引きずっているasukakyokoですけれども。
今回は、いろいろと面倒そうな『ウォッチメン』をチョイス。例によってネタばれ的なものは一切配慮していませんので宜しくお願いします。


ウォッチメン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

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とりあえず青い人がでてきたら大体全部解決するというハナシかと思ったらまったく違いました。
能力の図式的には


ふつうの人 < ふつうのヒーロー < 黒幕 <<越えられない壁<< 青い人


ですが、この図式どおり世界は動いていないよねという話です。
世界というか、今回の映画では守られるのは「平和」ということになっていますが、人々の平穏な日常というのは別にスーパーヒーローが守ってるわけじゃねぇんだよ、という話と言ってもいいかもしれません。
あるいは、実際に世界を動かすのは神でも、スーパーヒーローでもなく、ある種の想像力だという話なのかもしれません。


原作のコミックスは12巻という長編であり、筋を要約するのも大変な代物のようなので、本来アメコミファンでもない私としてはこういうまとめでお茶を濁そうかと思います。というか、アベンジャーズとの落差がすごすぎてちょっと落ち込んでいます。


とにかく全編めちゃくちゃ暗い。雨のシーンに始まり、雪のシーンでクライマックス。しかもいきなり殺人現場から始まる。殺されたほうが同情できるような人物でもないのがまた微妙なところで、かといって、それじゃあ彼だけが悪人なのかというとまったくそういうことでもなく、こういう書き方からお察しいただきたいのですが、とにかく割り切れない話です。


通常のアメコミではおそらく、何がよくて、何が悪いのかということが非常に明解に描かれていると想像しますが、今作はそれに対してのアンチテーゼというか、善と悪というのが常に入れ替わり、スーパーヒーローが非常に活躍しにくい状況を作り出しています。活躍しても火事場の救出劇なんかであり、ご近所の親切なお兄さんレベルのことしかできない。


では超人的能力をもつはずの青い人は何をしているのかというと、あまりに超人すぎて、人間存在をも超越してしまい、結果的に人間のことなどどうでもよくなってしまうわけです。宇宙の営みにくらべたら、人間というのはなんと小さいことか…人は生命を過剰評価している…火星には生命がないがあらゆる現象の調和が取れており美しい…とかいう始末です。本当のスーパーなヒーローになりうる素質をもつにもかかわらず、彼は人間の意図通り動かない、神のような存在に成り果てています。


で、現実的に世界を動かしたのが誰かと言うと、莫大な財力と頭脳を持った人間だったりします。そして彼自身の真の目的というものが人類の救出、地球の救出であったとしても、彼は大量破壊兵器を使用した大量虐殺犯であり、そうした大量虐殺の上に成立する平和は欺瞞そのものだと、最後にロールシャハ氏が断罪するわけです。


そう、ロールシャハ氏は狂言回しとして、また登場人物の一人として、非常にキャラのたった人物で、彼によって物語りはどうにか収束したと言ってもいいかもしれません。彼だけが揺らがない芯であり、彼だけが世界を善と悪とで割り切ることができる。それゆえ、最終的に黒幕氏の欺瞞が生んだ平穏な世界の中では生きられなくなってしまう。
対照的なのは、小市民的なナイトオウルとローリーが実現された平和の中で生きてゆく(=黒幕氏の欺瞞に目をつぶり、真実を隠すことに同意する)ことです。彼らにとって、スーパーヒーローは市民の生命を守る存在であり、彼ら自身の役割は、地球規模の人類救出ではないからです。


結局、もっとも悲哀を帯びるのはロールシャハ氏と黒幕氏、ということになり、見ているほうとしては、ヒーローが悪役をやっつけたぜ!やったね!みたいなスッキリ感はまったく得られない結末となります。


とはいえ、最終的に抑止力として永遠に地球を去ることになる青い人を、「彼が見ていると思っているうちは」と表現するなど、原作から抽出された何十もの仕掛けがあちこちに見え、面白い話ではありました。映画としてのできはともかく。


とりあえず、スッキリしたい方には全力でお勧めしません。