空色勾玉

空色勾玉 (徳間文庫)

空色勾玉 (徳間文庫)

ちょうど単行本が徳間書店から発売されたその年に、同級生から借りて読んだ。初めて徹夜して読んだ本でもあり、小説の形として歴史ファンタジーというようなものを意識した本でもあり、思い出深い。今回文庫化されているのを見つけてつい買ってしまったのだけど、やっぱり面白い。何が面白いのだろうなぁと少し大人になった頭で考えてみたが、実在と非実在との間を行き来する自由さなのではないかなぁと思う。
死の国も、天の国も、いまの私には実在しない。けれど、この本の中ではどちらも実在する。彼らは私たちに理解可能な仕方でその間を行き来し、やりとりをする。そういう世界が存在することではなく、むしろ、そういう世界によって何かが語られているのだということが、面白いのだと思う。ありえないと思えるものが、ありえる仕方でつながれているということ、語られるということ。そしてそれが、とても身近なものとして理解できるということ。にもかかわらず、これまでになかったと感じるということ。
でも、それよりもこの本を読むと、いつも、創作ということと、物語ということの、基本に思いが至ってはっとする。たとえ存在しない世界が描かれていたとしても、そこにあるのは可能だったはずの私たちの姿であり、だからこそ、彼らの心の動きや行動に、私は心を動かされるのだということに。人が丁寧に描かれるということ。そして彼らが困難を乗り越えるということ。嘆き、笑うということ。それがまるで存在するかのように感じられること。彼らがとなりにいるみたいにみえるから、私はその笑顔に心がほぐされる。作者が人のあり様をとてもいつくしんでいるのだということが読みとれるから、私はこの本が好きなのだと思う。