新しい年に

単純な世界は美しく甘く楽しいが、わずかな歪みで簡単に失われる。単純な世界の先に、想像を絶する複雑さが広がっていることを知るとき、ひとは胸を打たれると同時に失われた純粋な喜びを思い出して悲しみに沈むのだ。
その痛みは、鈍くじわじわと胸を締め付け、後悔という淵へいざなおうとする。
私たちはそれに負けるべきではない。私たちは世界を知るとき希望を体現しているのだし、私たちはまた未知や未来という希望のもとに生きている。世界は変化していくものであり、私たちもまた変化する世界の一部なのだ。その中では停滞すらも変化に囚われていく。
生きることは変わることだ。世界や関係の変化を恐れてはいけない。出会うことや別れることを恐れてはいけない。単純な幸せが複雑な闇に支配されても、私たちは再び光を見つけ出せる。その信念こそ希望であり、それがどれほど儚くて、どれほどささやかでも、私たちはそれによって生きている。
膨大な関係の海の中を私たちは手探りで進む。明かりで照らされたところも、闇に沈んだところも。私たちはその手に手繰り寄せた関係どもを、慈しみ育て愛すると同時に、壊し汚し失っていく。
この徒労は一生続く。しかしそれは希望と表裏となって私たちを生かしている。私たちは疲れ果て、手繰り寄せた糸を離してしまうかもしれない。でも次の瞬間には希望が私たちを別の糸へ導くのだ。
私たちはそうやって生きている。繰り返しに膿んではいけない。どんなにささやかでもそれは変化しているから。そしてささやかでも変化しているなら生きているのだから。だからどんなに辛くても、私たちはその生を両腕にしっかり抱きしめて、受け止めてあげるのだ。