下北沢の獣たち

空中キャンプさん(id:zoot32)作です。私は文学フリマに行ったことがなく、ブログ界隈でにぎわっているのを眺めている程度だったのですが、気になる人の作品が手にはいるとなるといてもたってもいられなくなりわがままを勃発させたところ、今回ご縁もあって無事手にすることができました。その経緯は以下を参照:
「空中キャンプさんの本がほしい」http://d.hatena.ne.jp/asukakyoko/20090505#p2
「カボチャケーキ、あとお礼」http://d.hatena.ne.jp/asukakyoko/20090510
「空中キャンプさんの本が届いた!」http://d.hatena.ne.jp/asukakyoko/20090514


さて、この本には「アイコ、六歳」「下北沢の獣たち」「ひとすじのひかり」という三つの短編が収められており、それぞれ空中キャンプさんの特色がでて面白く仕上がっていました。それぞれについて感想を書いてみます。(なお、あらすじは空中キャンプさんのこちらのエントリをご覧下さい:http://d.hatena.ne.jp/zoot32/20090504#p1


「アイコ、六歳」
私はこれ、好きでした。小学生は多かれ少なかれ、こういうところがある。大人をばかにしているし、自分はいろんなことができると思っている。でもふとしたときに無力さに気がついて、そしてそれがよくわかるもんだからとても哀しくなる。これは私の話ですが、特に親が泣いているとか、そういうのはほんとうに嫌でした。親のけんかってほんとうにいやなもんです。
ただ、アイコは私よりもずっと強いのか、弱気になるところはほとんどなかった。アイコは六歳なのにもう大人なんです。アイコのもろさがもっと見られたらよかったのにと思いました。


「下北沢の獣たち」
「下北沢を新宿に変えたら完全にハードボイルドなのに、下北沢だとちょっとのほほんとした雰囲気が出てしまうところが秀逸」(身近な人談)な本作ですが、これは表題作らしく一番面白いと思いました。下北沢を根城にする猫たちの、闘争の物語です。真面目な描写もそれが猫であるというだけで面白く、とくにマイクチェックはよかったです。マイクチェックは犬の名前で、周辺の事柄についてよく知っている長老のようなやつです。そして猫たちにアドバイスをくれる。このマイクチェックの要求と猫たちの要求が折り重なって物語の展開を支えているところがとてもよかったです。


「ひとすじのひかり」
これは私にはよくわからなかった。空中キャンプさんは「女のひとが素のテンションでさらっと嘘をつく」ところが描きたかったそうなので、きっと女の人が嘘をついているということなんだと思うんだけど、二度読んでも単に矛盾した描写をしてしまったようにしか見えず、あんまり嘘ということがわからなかったです。ただストーカーの部分はよくわかりました。変態はあんまり自分のこと変態って認めたがらないよね。嘘をつくということが、どういう文脈で可能になるのか、興味深く思いました。単なる矛盾の描写は、嘘ではないんですよね。


全体としてとても楽しめました。こういうのをみると、自分でも小説書いてみたいと思いますよね。思いませんか?みんな小説を書いてみたらいいと思いました。そして手みやげがわりに自分の書いた小説を手渡す。あ、わたしこういうものです。まあ、あなたはハードボイルドがお好きなのね、私はアガサ・クリスティが大好き。これはゴルフ場殺人事件をぱくって書いたの。間をとったらエラリー・クイーンかしらね?といった挨拶ができるようになったら世の中楽しいような気がします。