『chori』

chori


世の中には、面倒をみてあげたくなる人というのがいて、choriというのはそういう人なのだと、この本を読んでいて思う。周囲が手出しせずにはいられないような危なっかしさ、と無鉄砲さ、がこの人にはある。
詩という響きのもつ、純粋な詩らしさが、ここにはこれでもかというほどあって、むしろありすぎて、何度も本を放り出して遁走しそうになりながら*1、けれど、最後まで読み終えてみると、どうもこの人の詩はからっとしている。詩の市場がいまどうなっているのか私はまったく知らないけれど、おそらく繁盛してはいないだろう。そういう中で雑巾のようにボロボロになりながら常に駆け回っている人にしては、ずいぶんあっけらかんとしているのだった。
この本を良いと言ったのには、二つほど理由があった。
ひとつは、それが本当にきちんと「詩」であろうとしているということ。
そしてもうひとつは、それがとても前向きであろうとしているということ。
choriという人の危うさは、その正統であるがゆえの危うさなのだと思う。たとえば「spoken words」というカテゴリで活動しながら、その肩書きが「詩人」であるところとか。能や歌舞伎のように伝統芸能として保存されるわけでもない。家元がいるわけでもない。缶ジュースのように飲まれて捨てられていくだけの「詩」とか「詩人」であろうとしていることが、彼の有り様を危うくしているように思われてならない。けれど、それでもなお、彼の詩は詩であろうとする。
たくさんの人間に、おそらく囲まれながら、この本からは、彼の一人であることがなぜか強く感じられる。ふつうそれはとてもネガティブな要素になる。けれどchoriという人の姿勢はあくまで前向きで、私はそれが良いと思った。
あともうひとつ、良いと言った理由を思い出した。
それは本が安いことだ。とはいえ、1200円はそれなりかもしれない。新書が二冊、文庫なら三冊くらい買える。だが、お昼ご飯を二回くらいおにぎりにして買ってみる価値は、この本にはあると思う。お昼ごはん二回分の満足は、得られるはずだ。だから本屋でこの本を買ったら、コンビニでおにぎりを(パンでもいいけど)買って、公園のベンチで読んでみてほしい、と思う。普段カフェで飲むコーヒーを缶コーヒーにして、デザートは100円の板チョコにして。『chori』というのは、そういう感じだと思う。


chori official web : http://chori.cc/
青幻舎の『chori』コーナー:http://www.seigensha.com/books/chori/top.htm

*1:私はそういうものと正面から向き合うのが苦手だ