心にいどむ認知科学

心にいどむ認知脳科学―記憶と意識の統一論 (岩波科学ライブラリー (48))
『心にいどむ認知脳科学酒井邦嘉岩波書店、1997
気になったところの要約。


p.5
心が働くためには、脳のあるまとまった部分が必要…このレベルでは脳はシステムとして働いている。
だとすると、心にもシステムがあるのではないか。


p.17(こころの定義)
心とは、脳のはたらきの一部分であって、知覚--記憶--意識の総体である。
筆者の立場は、脳の活動のすべてが心であるとは限らない、という立場。脳と心の二元論でもなく、脳=心の一元論とも違う。(p.14)


p.26
「目の前に実際にある色を知覚するときだけでなく、残像という内なる知覚だけで色を感じるときにも、色覚中枢が活動する」


p.38-
コーエン、スクワイヤーの記憶の二分説(1980)
宣言的記憶(陳述的記憶)…頭でおぼえる記憶、見たり聞いたりしたことの記憶、意識して思い出す必要のある記憶
 過去におこったできごと(エピソード)、ことばや事実などの意味についての記憶


手続き的記憶…体でおぼえる記憶、思い出すときに自分のやっていることを意識する必要のない記憶
 運動の技能、パズルやゲームに必要な技能


どちらの記憶も、「脳で覚えている」という点では共通
記憶の有無の違いは、脳の記憶システムの違い
動物の記憶も含めた場合、宣言的記憶と手続き的記憶は、顕在的記憶と潜在的記憶という言葉に置き換えられる。
二分説はまだまだ修正中


p.49-
認知記憶…知識をたくわえたり参照したりする記憶、宣言的記憶(顕在的記憶)の一つ。
「認知記憶の役割とは、外界のものごとやそのあいだの関係をしらべて、これを貯蔵することにより、心のなかに外界のモデルをつくることである」


p.69
大脳皮質の機能的再編成…環境に適応して反応選択性を変化させるニューロン機構(チューニング)によって、脳の感覚野が外界の変化に合わせて再編成されること。大人の脳でも起こる。


p.89
心的イメージにおける情報の流れは、記憶のとり出しの時と同じ。
つまり、記憶情報がトップダウン的に取り出されて、心的表象をつくる。
証拠のひとつ…対想起ニューロン(特定の図形を思い出しているときに反応する)が、視覚的イメージをつくるときにも働く


p.90-
視覚的イメージの心的表象は、ほんとうに「視覚的」であるか
ローランド、フライバーグ(1985)
自分の家の戸口を出て歩いていく情景を想像させるときの脳の血流量
…視覚に関係した連合野の活動がふえる
ゴールデンバーグら(1987)
物体の名前の記憶において、視覚的イメージをつかうように指示をあたえた場合とあたえない場合の脳の血流量
…活動がふえたのは、おもに視覚前野の領域
コスリンら(1993)
PETを使い、視覚的イメージをつくる(目を閉じて文字をイメージする)ときに、一次視覚野と視覚前野がはたらくことを示す
追試
ローランドら(1994)
類似のイメージ課題で、一次視覚野の活動がPETで観測できなかったと主張


P.93視覚失認と心的イメージ
ビシアッチ、ルザッチ(1978)
右脳の頭頂葉後部の損傷による半側空間失認(物体の片側半分を無視する異常)…心的イメージにも同じような空間視の障害が起こる
ガリリアラら(1993)
視覚失認をともなわずに、心的イメージでのみ半側空間無視がおこるという最初の症例
ベールマンら、ジャンコヴィアックら(1992)
心的イメージは正常なのに、再認に異常を伴う症例の報告…イギリスの地図を正確にかけるのに、イギリスの地図を見せられても何かわからない


p.97
意識の3つのレベル
第1レベル…「覚醒している状態」
第2レベル…「外界に注意をはらっている状態」
第3レベル…「自分がしていることを自分でわかっている状態」
ハンフリー「内なる目」として自分や他者の心についてのモデルをつくる働き…社会生活への適応のため?


p.102
「自分がしていること」には3つある。
1…知覚、感情の情報を入力している状態
2…運動、体の筋肉を動かすための指令を出力している状態、体を動かすことにより固有感覚が生じるので、知覚とは無関係ではない
3…脳の内部状態、思考、意志、感情など。メカニズムは不明。
ここでは、1(と2)の知覚と関係した第3レベルの意識について述べられている。


p.104
シュレディンガー『精神と物質』第一章「意識の物質的基礎」
「意識は生体の学習と連合していて、技能の習得は無意識的である」
(意識…第3レベルの意識 学習・技能の習得…手続き的記憶に関係)
「意識とは教師である」


p.106
筆者の意識のモデル
知覚--記憶--意識の統合モデル
知覚は、特徴分析装置から記憶貯蔵庫へのボトムアップの過程。
記憶貯蔵庫から特徴分析装置への逆の流れが意識ではないか。
知覚の情報の流れを逆にたどることによって、知覚しているという状態を、脳自身が確認できるのではないか。