例題1.12


 私たちはしばしば、数学者を理論か 応用かで分類する。だがもちろん、数学者を分類するには他にも多くの方法があるし、数学が為すことの性格でその仕方は変わる。比較的最近の二分法は、理論数学者を実験数学者と対比させている。このような呼称は通例理論物理学者と実験 物理学者に対し用いられてきたものと似ている。つまりこういうことだ。それらは目的とするものが理論的か応用的かどうかということからは独立だし、実験家が実験室で高価な器具をいじくりまわしている間、理論家がからっぽの部屋で白紙を目の前に座っているというようなことは前提としない。一定の複雑な数学的実験ではコンピュータを頼りとするが、それ以外では紙と鉛筆以上のものを必要とはしない。その本質的な違いは、実験家は観察から結論を推論するのに対し、理論家が仮定から結論を演繹することにある。それは、演繹と帰納の違いなのである。


(『演習大学院入試問題』サイエンス社、2002)