ヴィム・ヴェンダース「pina」

http://www.pina-film.de/en/trailer.html


ピナ・バウシュ振り付けの舞台を中心に作られた、舞台映像でありドキュメンタリー。撮った人はヴィム・ヴェンダース
とにかく楽しかったです。ピナ・バウシュの振り付けによる舞台を私は一度も見たことがなかったし、その名前はある種高尚なものとして記憶にとどめられていたにすぎなかったわけですが、そんなピナ・バウシュを語る前に冒とくしているような私でさえとっても楽しんで見られました。
なにより独特の振り付けが楽しい。でも、最初に感じたのは孤独でした。愛と喜びの前に必ず影のようにして孤独が張り付いている。彼女の描く愛は意志では手が届かない。私たちは自分の意志で愛を手に入れることはできないのかもしれないと感じるほど、その愛は不意に、予兆もなく訪れます。不随意の体、うまく動かせない体、あるいは翻弄される体は、怯えと震えを伴って緩慢な動作とはげしい動作を繰り返します。そしてついに、それは賜物のように不意に私たちの目の前に現れます。でも、私たちはそれに触れるとそれが温もりであり愛だとわかる。奔流のように、時には静かな融合のように、しっかりと抱き合う姿に収束する二つの体を見ていて、私たちはずっと孤独の中にいて、喉から手が出るほど幸せが欲しいと思っていて、それを叫んでいるのに誰にも届かないことを知っていて、だからこそ、不意に手に入れた愛と喜びに満たされるのかもしれない、その幸福な一致の一瞬が際立つのかもしれないと思いました。
だから、最初に感じたのは孤独でしたが、最後には私は喜びに満たされていました。それは、彼女から発される<表現することの喜び>のようなものに触れたからかもしれないし、彼女が振り付けによって表現した喜びに触れたからかもしれない。あるいは、ピナ・バウシュという人が美しいだけではない感情を知っていて、そのことに気付いたからかもしれない。いろいろな感情を表現している彼女の振り付けが「喜び」という言葉で語られることがあるのが、分かる気がしました。
いずれにしろ、あちらこちらで断片的にしか知らなかった舞台を映像という形ではあれ見ることができて大変満足です。
あと、映画としてはとても選曲がいいし、映像も美しいです。なんだか最終的には3Dで見られるそうですが、そういうのすっとばして綺麗。ヴッパタールの空中モノレールも大変面白い乗り物で、興味がそそられました。


補足
日本での公開もありそうです:http://www.cinematoday.jp/page/N0030921