夜桜

バスが目の前で行ってしまった。スーパーのビニール袋を片手に、三分悩んで、とりあえず次のバス停まで歩くことにする。次のバス停に着く。バスが来るまで、あと15分以上ある。しょうがないので、もう一つ次のバス停まで歩く。すぐに着く。まだ、15分は待つ。やはりそんなに待つ気はしないので、さらに次のバス停まで歩く。もう一つ、さらにもう一つ、またもう一つ。そうやって歩いていたら、ずいぶん家の近くまでたどり着いてしまった。バスはまだ来ない。家までは、徒歩15分の距離だった。ここまで来てしまうと、もうバスに乗る気もしない。結局、歩いて帰ることにした。
そう決めてしまうと、今度は、歩くのが面白くなってくる。いつもと色調の異なる景色、街灯に浮かぶ花を眺めながら、のらくら歩くのは、思った以上に気持ちがいい。夜の住宅街は静かだ。でもこの時季の静けさは、冬の静けさよりももう少しざわついていて、だから、外を歩くのは、この時季が一番好きだ。