ウィニコット, Playing and Reality

Playing and Reality (Routledge Classics)

Playing and Reality (Routledge Classics)

ウィニコット精神分析の手法を知ることによって、私は自分が一時的にずいぶんおとなになった気がした。というよりも、おとなになるということがどんなことがわかったきがして、目の前がすうっと拓けた。気持ちがずいぶん楽になった。それと同時に、強ばっていた部分がほぐれて、急に声を上げて泣きたくなった。赤ん坊のような気持ちだった。初めて世界に触れたときの、怖いような、でも期待に満ちあふれた、輝かしい一瞬だった。そしてそのすぐあとに、とても調和した均質な世界がやってきた。体が宙に浮いたような感覚と、私自身を見ているような感覚。自分を見るような感覚。誰か、それは誰かは分からなかったが、誰かの視線を借りて自分を見ている。私の外に立っている感覚。そこはとても穏やかで、理性的な場所だった。私はうずくまっているこどもを見た気がした。そして、その子を抱きかかえるような気持ちで、彼女を見ていた。彼女は怖がって泣いていた。大丈夫、大丈夫、私がいるから、安心していいと、私は彼女に言った。大丈夫、大丈夫、と、それは自分自身に言い聞かせているのだということに、私はしばらくして気がついた。そのとき私は自分がまた教室にいることに気がつき、そうやって日常が戻ってきた。私はまた自分がよくわからないところに戻ってきてしまったと感じた。けれどそれは以前にくらべて、それほど不安ではなかった。大丈夫、大丈夫、ともう一度繰り返すと、私はゆっくり顔をあげた。すると不意に教壇に立つ先生と目があって、なんだ、この人は全部知っていたんじゃないのかという気がした。あるいはそれが誤りであったとしても。